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「イタリアで一番面白いのは人間」の巻

 チェルヴィニアへ戻るのに、プランメゾンからはフニヴィアに乗って降りることにした。プラトーローザから11キロの距離を滑る体力が残ってなかったからである。それでも初日の足慣らしとしてはもう充分と言うぐらいの距離を滑っている。

 フニヴィアに乗り込むと、さっき訓練していた山岳国境警備兵の一隊が先に乗っていた。間近で見ると指揮官を除いて、確かに全員そろって若い新兵だ。ペッピは早速
「どこから来たんだ。訓練はどーだった。あーはは。そりゃ大変だったな。いししし」
なんだかんだ一隊を巻き込んでいる。

 新兵たちはそのうち狭いフニヴィアの中で、好奇心を持った眼差しで、東洋から来たわれわれ五人を眺め始める。頃合いを見計らい、ペッピは傍らに立っている剣持の左腕を高く上げて、
「ジャッポネーゼ。ユーイチロー、カムピオーネ・デル・モンドー」
と叫び出すのであった。

 こういうところがさすがイタリア人。われわれにはなかなか真似できないところなのである。他愛ないことをネタに、取りあえずその場の雰囲気を楽しく盛り上げてしまうのが実にうまい。
「ニッポン人の世界チャンピオンて、言ってるよぉ」
と訳している間にも
「よーく見ておけよー。こいつらは、今回ニッポンからやって来た、スキーのティームだ。中でもユーイチローは一番早くて強い。チャンピオンだーっ」

 どんどん叫ぶので、指揮官は剣持に握手を求め、新兵の眼差しには、一挙に尊敬と畏敬の念があふれ出てくるのが分かった。

 剣持は普段、都合が悪いことや困ったことがあると目尻が下がって、叱られた犬のような目つきになってしまう。このときは純朴な新兵ばかりの山岳国境警備兵の前で、ペッピに左手を高く挙げられ、チャンピオーンと褒めちぎられて尊敬の視線を浴びているのに、なぜかガクッとうなだれ、叱られ犬眼になってしまったのであった。

 フニヴィアが村に着いて、整列する山岳国境警備隊に挙手の礼で送られた後、
「あんなこと言っちゃっていいのかなぁ。オレが滑ってたとこ見られてないだろなぁ」
律儀なニッポン人らしく、ちょっと心配そうな剣持だった。

 ほんとのことを言うと、この日われわれは一回プラトーローザを左へ回って滑り降りただけで、あとはプランメゾンからリフトで登って滑っていたのだ。彼らも訓練に集中していたので、他人が滑っているのを見たりする余裕がなかったのは、日伊関係のためによかった、よかったなのであった。


 チェルヴィニアでいきなり長距離を滑って喉が渇いた剣持は、山を降りるやビールを飲みたくて遠藤と村のバールへ入って行った。

 イタリアに行くと気がつくだろうが、コンビニや自動販売機というものがない。日本ではそこら中にある自動販売機が見当たらない。ビールや煙草、缶ジュース、缶コーヒーなんてものを自動販売機で売ってないのである。何か飲みたいときは町中にあるバールで飲むか、家に帰るまで我慢することになる。

 突然、話は変わってしまうのだが、日本のようにどこでもいつでも、飲みたいときに飲めるのは確かに便利である。しかしそれで空き缶が溢れかえり、我慢の足りない人間が増える。ゴミは燃やしても燃やしても、埋め立てても埋め立てても処理しきれない。ビニール袋が風に舞い、ペットボトルが海にまで浮かぶ。

 我が家のある茅ヶ崎あたりでは夏になると海岸は必ず渋滞し、車から空き缶、空き瓶を投げ捨てるバカが後を絶たない。そして人々が去った海岸には、ゴミと一緒に缶、瓶が山のように捨てられている。住民としては
「あぶねーだろっ。バーロー!ゴミは自分の家に持って帰れ!」
と言っておきたい。

 こんな状態をしかし、べんり便利、あいててよかったと、喜んでばかりいられるのだろうか。いくらコンビニが便利だからって、なにも夜通しあけとく必要なんかほんとにあるのか。突然ではあるがコンビニを利用しないこちらはそう思うのである。

 コンビニの閉店は九時でもいいんではないか。それでは困ると言うなら、百歩譲って十一時まで開けておこうではないか。
「そうだ、コンビニは十一時で閉店すべきである」
深夜のコンビニを利用しないこちらは突発的久し振りではあるが、明快に言い切るのである。

「日本中の飲料自動販売機を撤去すべきだ」
そうすれば、街の美観がどれ程すっきりするだろうか。この際自動販売機関係に従事する方には、申し訳ないが他の天職を探して頂きたい。缶コーヒーや缶ジュースを飲まないこちらは、急遽そう提言するのである。

 そう言えば、イタリアにはコンビニも自動販売機もネオンサインもないけど、原発もないもんなぁ。


 最近は色んなことが自動化される一方である。電車の切符を買うときは自動販売機。改札も都会では殆ど人がいない。電車に乗るとウオークマンでカシャカシャの世界。会社に着けば、朝のジュースやコーヒーを、ガッサンと自動販売機で買い求め、自分の定位置のパソコンの前に座ると、仕事はしてるんだろうけど、とりあえず、じーっと無口なままだ。

 銀行で金をおろすのも入れるのも自動預金機。公共料金は口座から自動引き落とし。ちょっと前まではそれぞれの窓口に行き、いちいち手続きしたのである。そこでは係のお姉さんと口も利いたし、恋の芽生えるチャンスも(おれはなかったけど)あったに違いない。 こうして、無口なニッポン人が増えるのだろうか。無口からの革命的な転換。無血革命じゃなくて無口革命はまたしても遠のいてしまうのだろうか。

 気のせいか、なんとなく近頃オタクっぽいのが多くなり、何考えてんのか分からない犯罪が増加しているようでもある。無灯の自転車で背後から忍び寄り、いきなり切りつけるなんつうのより、スキーにでも行って、女の子に声かけてたりする青少年の方がよっぽどまともだと思うのである。

 巨匠と言われるアメリカの映画監督が、ローマのチネチッタ(川崎のじゃないよ。元々はCINE CITTA=映画の街と言うイタリア語)で映画を撮影したときに残した名言。

「イタリアは役者以外に名優がそろってる」

 その心は、職業俳優は大根で下手くそだが、市井のフツーのイタリア人はみんな名優で役者揃いだと言うのである。

 イタリアへ行ったらどこでも人間を観察してみるといいだろう。プランメゾンのあたりにいるイタリアーノを眺めているだけで時のたつのを忘れてしまう筈である。

 イタリアで一番面白いのは人間であるとはやはり、誰しも思うことなのだろうか。



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