ホテルエウローパを朝の八時に出発して、九時前には滑り出した一行は、一時半に、5番コース途中のレストラン"LA CHATELAINE"に集合することにして、それまで各自思う存分滑り込むことにした。

イタリアーノの昼食は二時くらいからと、大体相場が決まっている。だから、夕食も遅めで夜の八時、九時にならないと始まらない。ニッポン人はきっかり十二時昼食の民族なので、ちょっと時差がある。あまり早く昼食を取ると、夜が遅いので間が保たない。

食い物がうまい、酒が美味いが生きてる喜びの大半となってしまった近頃は、イタリアスキーの楽しみの半分が、食事とワインにあると言えるかもしれない。

ところで、ワインと言えば、赤ワインが体にいいと、日本でも最近飲む人が増えているらしい。福島のいわき市からやって来た能戸俊輔、洋子も、
「前はわたしたちしか買わなかったから、いつも一杯あったのに、最近は赤ワインの棚はいつもカラなの」
と言うくらいである。何でも赤ワインに含まれるポリフェノールが動脈硬化を防ぐとか、心臓病になり難くすると信じられているようなのである。バブル期にはボージョレ、ボージョレと騒いでいたが、今は赤ワイン、赤ワインとニッポン中でもてはやされているのである。

高温多湿の我が国で、ワインを貯蔵するのはなかなか金がかかる。そこで、ワインのラベルをそっくりはぎ取ってしまう透明シールを発明し、ワインのラベルを収集してしまう。この辺は、何ともニッポン人らしい。

この透明シールを携えて、日立市から来たドクターハラダこと、原田洋一もなかなかのワインラバーである。今回も昼夜を問わず、ワインラベルの収集に情熱を傾けることになり、昼の食事まではシラフだが、昼食後〜夕食〜寝るまで、ずっとほろ酔いの、立派なイタリアスキー探検隊員に成長したのであった。

ツアーも後半にさしかかった頃、原田が見せてくれたソムリエノートには、それぞれのワインを評価するコメントが、
「豊かなコクがあってまろやかなワイン」
「華やかな香りとしっかりした個性」
「しなやかで、ふくよかなかおりがする」
などと、几帳面な字でびっしりと書き込まれているということはなくて、大きな字で、
「なかなかいい」
「かなりいける」
「これもなかなかうまい」
と書いてあるだけなのだった。

ロゼワインのような、ほんのり顔の原田は
「稚拙な表現だなぁと、自分でも思う」
ワイングラスをゆらりとさせて静かに笑うのであった。

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飲むわ食べるわ。 ソムリエハラダ、隊長、
プロフェッソーレノー ト
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