目白の銀嶺スポーツで新調したラングのブーツに足を入れていると、人の気配がした。振り返るとクールマイユール山岳ガイド協会のウェアを着た青年が立っていた。ガイドのステファノだった。これから彼と一週間を共にする。立ち上がって握手して皆に紹介した。

二つのエリアに分かれているクールマイユールのスキー場のうち、初日は街と直結しているシェクルイへ行くことにする。調子が出なければゴンドラで直ぐ戻ってくればよい。もうひとつのヴァル・ヴェニのスキー場だと距離を滑らねば戻ってはこられない。

ステファノを先頭にホテルパヴィヨン近くのゴンドラ乗り場まで歩いていく。今日はゆっくりいくことにしよう。海外スキーの怪我の発生率は初日が最も高いというから。

探索隊も発足から八年。初回から楓山一登が最長老で、三年前からは野尻久枝が参加するようになった。二人ともすこぶる壮健だが、今年七三だか四になる筈なのだ。スキーは生涯スポーツを体現して元気に滑り続ける二人を見ると、若い隊員たちは大いに励まされる。

ゴンドラ乗り場では、スキーパス・ヴァッレ・ダアオスタを買うことにする。これ一枚あれば、クールマイユール、ヴァレーブランシュへのモンテビアンコケーブル、それにラトゥイールも滑ることができる。

早速、プラン・シェクルイへ上がる250人乗りケーブルに並び、行く手を見上げると、シェクルイには雲かガスか湧き出すように覆い始めている。イヤな予感がちょっと。

プラン・シェクルイに着いてリフトで上がり始めると、今度は空から雪が舞い降り始める。このあたりでチラつくということは、上に行けば、もっときつくなるだろう。不吉な陰が大きくなってきた。
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