今年の夏、イタリアで暮らす村上を訪ねて、日本から彼女の友達が三人でやって来た。ドゥオモの近くのセルフサービスで食事することがあり、四人掛けのテーブルに陣取った。奥に座った二人にテーブルに残って貰い、
「じゃ、行って取ってくるから、バッグ見ててね」
村上ともう一人の友達が、食べ物飲み物を取りに行くことにした。トレー持つのに邪魔だし、二人も残ってんだから、この場合誰だってバッグは置いていきますワね。

ところが、料理を取り終わって席に戻ると、椅子の上に置いといたバッグがない。さあ、たいへんの大騒ぎで食事どころじゃない。残ってた二人に聞いても、狐につままれたように、全く分からない内に盗られてしまったらしい。

思い当たるのは、残ってた二人に誰かがしきりに手を振ってたことぐらい。
「わたしたちかしら、なんだろうね」
二人がそちらを見ているスキに、反対側から椅子の上にあったバッグを置き引きされたと考えるしかない。残った二人から向かいの席のバッグが死角になっているのを、盗った奴らは巧みに利用したのだった。

警察へ届けに行ったら、日本のパスポートが入ったバッグが地下鉄の駅のポリツィアに届けがあったと言われて、地下鉄に乗って見に行ったが、友達のものではなかった。中には当日出発の航空券やらパスポートやらが入っていたが、それはまた他のジャッポネーゼが盗難にあったのだった。可哀相に。

これまでずーっとイタリアのいい話ばかりしてきたが、それは、こちらの気が許せる間柄の話ばかりだからである。イタリア人がすべて善人ではもちろんない。どこ行ったって悪い奴はワンサといるのだ。だから、折角のイタリアスキーを楽しい思い出にするためには、自分が、しっかりと用心するほかないのである。ったく。油断もスキもあったもんじゃないなあ。なんとかしろよ、イタリア。
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