初めてサッソルンゴを深く意識したのは1996年、探索隊結成の年である。コルティナから、パッソ・ファルツァーレゴを越え、アラッバから時計回りのセッラ・ロンダに初挑戦したときのことである。

以来幾度となくサッソルンゴの姿に接しているが、いつ見てもドロミテを実感させられる。誰しもセッラ・ロンダを経験すると、刻々と変化するセッラの山容とマルモラーダやサッソルンゴは忘れがたいものとなるはずである。

このセッラ・ロンダを「ドロミテの観覧車」と呼んだのは、若き日の加藤雅明だが、言い得て妙。これに代わる表現をいまだ知らない。ここ数年設備の更新がなされ、TバーJバーは一掃され一層便利になっている。

サッソルンゴはセッラ・ロンダの時計回りならば、アラッバからポルドイ峠を越え、ベルヴェデーレに立つとトンガリ山が三連で並ぶ姿が現れる。写真などでよく目にするのはこちらの方である。

反時計回りなら、コルヴァーラからガルデナ峠へ向かうと見え始めるが、これが同じ山かと思うほど景観が異なる。パッソ・ガルデナからのサッソルンゴは、三山が屹立した姿ではなく単独峰なのである。

ガルデナ峠は、東にセッラ山群、西にチール山群の谷間に続く峠なのだが、ここからは台形のサッソルンゴ主峰だけが表れ、それ以外は背後に隠れている。しかし、正面に鎮座するサッソルンゴ北壁は、1000mを越える垂直の壁となって立ちはだかり圧巻である。

サッソルンゴと総称されるが、実をいうとサッソ・ピアット(2,956m)、サッソ・レヴァンテ(3,114m)、デンテ・ディ・メツディ(3,081m)等、幾つもの頂をもつグルッポ・ディ・サッソルンゴという山群なのである。その中で一番高いのがサッソルンゴ(3,181m)というわけなのだ。

セルヴァ・ディ・ガルデナ(1,563m)へ滑り、パッソ・セッラ(2240m)へ回り込む間は、いつでも視界にあるセッラ山群。ヴァルガルデナを越える間視界から消えることがない、見上げる偉容のサッソルンゴは、スキーヤーにとっては馴染み深い山というわけなのである。

冬の間は雪が覆い白一色の世界に砂糖をまぶしたパンドーロ(イタリアでクリスマスに食べるケーキ)のように見える。パッソ・ガルデナに到着して、サッソルンゴの姿を目にすると、いつも「あ、パンドーロ」と思ってしまう。

ところが、夏は峠の道をクルマだけではなく、自転車やバイクに乗った人々が行き交う緑の谷間になっていて、そこには教会も見えている。まったく、イタリアではどこへ行っても教会と十字架なのである。

夏見るとサッソルンゴはパンドーロではなくて、星の王子さまに出てくる、ゾウをこなしているウワバミの絵、「うわばみにのみこまれたゾウ」のようでもあるのだ。

セッラ山頂のボーエ(3152m)への登山口もあるので、トレッカーたちがルートを辿っている。色々な人にとって、ドロミテではパッソ・ガルデナが欠かせないポイントとなっている。