露天風呂につかりながら、目の前に広がるボルミオのスキー場の全容を眺めていると、海外スキーは初めて、イタリアも初めてという桜ちゃんこと、桜井郁子が聞く。
「極楽ってイタリア語でなんて言うの」
「極楽?んーと。なにかなぁ」
極楽って仏教の言葉だしナ。キリスト教の言葉じゃないな。隊員の中じゃ、ま、曹洞宗和尚=関戸章仁の世界だよナ。でも、天国のことだから、パラダイスでもいいかな。ふむ。ふむ。
「極楽はイタリア語でパラディーゾだろナ」
「そう、パラディーゾって言うの?」
「ま、パラディーゾだろうね」
桜ちゃんは静かに立ち上がり、西日を受けて輝くボルミオの山並みに向かって
「ゴクラーク!ゴクラーク!」
といきなり鈴を鳴らすようにご発声になり、 「パラディーゾ!パラディーゾ!」
とイタリア語でも、ご発声なさったのである。
探索隊が四大スキー場を滑るうちに、桜ちゃんは、楓山一登が会長を務める小田原のアールベルグ・スキークラブの会員であること。勤めていた会社をリストラを機に辞めたこと。会社を辞めて心機一転再出発する記念に、同じ境遇の豊島美智代を誘ってイタリアスキーに来ることになったこと、などを聞いていたのであった。
イタリアのボルミオの温泉につかりながら、桜ちゃんが発した「ゴクラク。ゴクラーク!」は、全員が同感できる安心の境地が伝わるものだったので、思わず隊員たちは「パラディーゾ!パラディーゾ!」とボルミオの空を仰ぎながら、声高く唱和してしまったのであった。
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サンタカテリーナの村。
橋の手前にデボラ・コムパニョーニのショップ
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サンモリッツの山容
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サンモリッツのカモシカ像
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