ワイン蔵探索に時の過つのも忘れた一行がヴェローナへ到着したのは、午後三時到着の予定をかなり遅れて七時を回ろうかという頃だった。こちらもヴェローナは初めてなので晩飯をどうするかはまったくノーアイデアである。こんなときはどーすればいいのか。

イタリアにはそんなとき役立ついい本がある。risitoranti d'Italia=イタリアのレストランというGambero Rosso Editoreのガイドブックだ。手元にあるのは1997年版で、三年前買ったとき38,000リラだった。毎年七月に新しい版が出るので今頃は2000年版が出ているのだろうが、別にこれで充分用が足りる。この本を見つける前はもっぱら、ミシュランの赤本頼りだったが、いまはツオーイ味方が二人もできたので向かうところ敵なしである。ところが、今回は強い味方のガイドブックをおいてきてしまった。

ヴァルポリチェッラでは昼間もウマイもの食って、ワイン蔵でもしこたま飲んだ。ヴェローナに着いた晩は時間も遅かったので、フロントに聞いてホテルの近くのトラットリアへ行った。

知らない土地で知り合いや頼れる本がなくても、最強の奥の手が残っている。街へ出て食事の時間になったら、そこらにいる地元の人に聞いて、おいしいレストランを見つけてしまう方法だ。ただし、誰でも彼でも聞けばいいというものではなく、人を選ばなければならない。若い人はそれなりに安くておいしいカジュアルな店を教えてくれるだろうし、それなりの年格好の人はそれなりのレストランを教えてくれる筈だからである。自分の希望と予算にあったアドバイスを得るためには、日頃から風体身なりだけで人を見抜くスルドイ観察眼を磨いておく必要があるということだ。

「えー、そこのひと、ちょっと教えて下さい。ここらでおいしいレストラン知らんすか?」
ヴェローナでも早速、歩いているおじさん三人組をつかまえて聞いてみた。突然話しかけるヘンなイタリア語、東洋的扁平的面相にイタリア人だって一瞬は怪しむが、遠慮無用。ひたすら話しかけてしまいませう。なにしろウマイもの食いたいんだから必死。
「イタリアに行ったらご用心」
「話しかけられたらご用心」
なんて言ってた人もいたけど、この際、忘れなさい。こっちが必要なときは、どんどん聞いてしまうほーが勝ちですワ。やっぱり。

普段から人を見る目を養ってきたおかげか、ヴェロネーゼのおじさん三人組は、ナント、自分たちの道を変更し迂回して、お勧めレストランRistorante Greppiaの近くまでわざわざわれわれを連れて行って下さいました。エ、エライ。ホントにイタリアのおじさん達は親切である。

中心街Via G Mazziniから一本入った「グレッピア」の入り口の額縁入りメニューでバジェットを確かめる。店の雰囲気とカメリエーレの態度も合格である。やりました。初めて来た町で見つけたとはとても思えない内容が、イタリアグルメ探索隊の☆☆☆なのでありました。

しかし、イタリアはどこへ行っても安くておいしいレストランがあるのはさすがである。高くておいしいのは当たり前だが、高くないのにおいしいところが立派である。イタリアへ行ったら人に聞き聞きでも、こんなレストランを見つけ出すのが楽しみのひとつなのである。

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